ウォーターPPP導入の背景
導入時期: 守谷市では、2023年4月から「上下水道施設管理等包括業務委託」という形でウォーターPPP(Public-Private Partnership)による新たな官民連携事業を本格導入しました(国内初の上下水道関連コンサルタント業務を含む長期拡大型包括委託契約を締結(茨城県守谷市))。この契約は令和5年4月1日から令和15年3月31日まで10年間にわたる長期契約です。契約金額は72億8,200万円です。10年間の委託で約7億円の市費削減(国庫補助金活用)を見込みます([茨城・守谷市]上下水道施設の管理等包括業務民間委託を拡大)。実は守谷市は2000年(平成12年)から上下水道分野で包括的民間委託を開始しており、当初は下水道施設の運転維持管理を民間委託し、その後2005年(平成17年)には水道施設管理も包括委託の対象に加えるなど、段階的に委託範囲と期間を拡大してきた経緯があります。こうした長年の取り組みの延長線上で、2022年に新たな公募を行い、従来の包括委託に加えてストックマネジメント計画策定などのコンサルタント業務を含む拡大型の包括委託契約を締結し、2023年から事業開始に至りました。この契約スキームは「国内初となる長期拡大型包括委託」と称され、全国的にも先駆的な試みとして注目されています。
背景要因: 守谷市がウォーターPPPを導入した背景には、上下水道事業の経営環境の変化と課題があります。守谷市は茨城県南西端に位置し、人口約7万人の都市ですが(令和5年7月1日現在)、全国的な人口減少や職員数減少の波は例外ではなく、水道・下水道事業を持続可能に運営するための新たな手法が求められていました。また、2005年に上下水道事業に地方公営企業法の全部適用を行い、水道と下水道の業務統合・効率化を進めるなど経営基盤強化を図ってきましたが、インフラの老朽化や更新需要の増大に伴う技術的・財政的負担が今後一層高まる見通しでした。こうした背景から、従来の短期・部分的な委託ではなく長期かつ包括的な官民連携によって課題解決を図る方針が打ち出されたのです。特に国の政策としても上下水道分野でのウォーターPPP推進が掲げられ、令和5年改定のPPP/PFIアクションプランでは令和13年度までに水道・下水道あわせて200件(各100件)のウォーターPPP案件創出を目標に掲げています。守谷市はこの国の推進方針にも合致する形で先行事例となりました。
解決しようとした課題
守谷市がウォーターPPPを導入した主目的は、上下水道事業の経営効率化と持続性確保、および市民サービスの向上にあります。具体的に、市が抱えていた課題と、それに対してPPP導入で目指した解決策は以下の通りです。
- 老朽化施設への対応: 水道管・施設や下水道設備の老朽化が進み、今後大規模な更新や耐震化工事が必要になる見通しでした。しかし、市内部にはストック情報(資産台帳や劣化状況データ)整備の遅れや、更新計画策定の専門人材不足といった課題がありました。PPPでは民間の技術力とノウハウを活用し、資産管理(アセットマネジメント)を強化することで、計画的な修繕・更新を迅速化する狙いがあります。実際、本契約ではコンサルタント業務(設備診断や更新計画の立案等)の委託を含めており、維持管理データに基づく効果的な修繕計画・ストックマネジメント計画の策定が可能となりました。
- 職員体制の維持と技術継承: 人口減少に伴う職員数の縮小や高齢化により、将来的に上下水道部門の人的資源不足が懸念されていました (〖情報処理〗ソリューション実績|株式会社 中央設計技術研究所)。特に専門技術者の退職により技術・ノウハウの継承が課題となっていたほか、限られた職員で施設管理から計画立案まで対応する負担が大きくなっていました。ウォーターPPPでは官民連携の拡大によって職員の負担軽減と実施体制の強化を図っています。民間事業者への包括委託により、日常の運転維持管理や緊急対応を任せることで市職員は戦略的業務や監督に専念でき、また10年間という長期契約で安定した運営体制を築くことができます。さらに、O&M(運営管理)企業とコンサル企業が連携することで高度なノウハウが共有され、市職員にも技術支援・研修の機会が生まれる利点があります。
- 財政の安定化と効率化: 上下水道事業の健全経営を維持するには、中長期的な財源確保とコスト削減が不可欠でした。守谷市でも、老朽管更新や耐震化への投資増大に対し、料金収入や補助金を安定的に確保する課題がありました。ウォーターPPP導入により交付金・補助金制度の最大活用を図り、市財政負担の軽減と安定財源の確保を目指しています。今回の契約は“性能発注”の形態をとっており、民間の創意工夫で効率化した分を市と事業者で利益シェアする仕組み(プロフィットシェア)も導入されています ([PDF] 最近の水道行政について – 福岡地区水道企業団)。これにより民間側にもコスト削減インセンティブが働き、事業費の削減(効率的運営)と市の予算の安定につながる効果が期待されています。実際、本包括委託では上下水道それぞれの予算科目(いわゆる地方公営企業会計の「第3条・第4条予算」)を横断的に活用できるため、従来別々に立てていた事業費を一体的・柔軟に最適化できるようになりました。
以上のように、守谷市は**「ヒト・モノ・カネ」それぞれの課題**(人材と体制の確保、施設設備の老朽化対策、財政の安定)に対して、ウォーターPPPという包括委託スキームで解決策を講じた形になります。その結果、市民に対して将来にわたって安全で良質な上下水道サービスを安定提供することを目指しています。
ウォーターPPPの対象範囲
包括業務委託の範囲: 守谷市のウォーターPPP事業は、上水道・下水道・農業集落排水施設の管理運営を一括して民間に委ねるものです。具体的な対象施設は次のとおりです。
- 水道事業: 市内の配水場(守谷配水場)および関連するポンプ場・配水設備等の運転管理が対象です。守谷市は自前の浄水場を2019年に廃止し、上水は全量を茨城県企業局の利根川浄水場から受水しています。したがって本委託では浄水過程は含まず、受水後の配水・給水に係る施設管理(配水池・ポンプ・水質監視設備など)や、日常の運転監視、設備点検、簡易な修繕などが委託範囲です。
- 下水道事業: 守谷浄化センター(市の終末処理場)および市内各所の汚水ポンプ場など、下水処理施設の運転維持管理全般が含まれます。浄化センターで処理された下水は利根川水系へ放流され、公衆用水域の水質保全に寄与しています(処理区域内人口約70,404人、汚水処理水量約11,912千㎥/年)。委託範囲には、処理場での運転操作・水質管理、機械設備や電気計装の維持管理、汚泥処理、副生成物である消化ガスの管理(守谷市では消化ガス発電事業も実施中)等が含まれます。また下水道管渠の日常点検・清掃や詰り対応などは一部直営か別契約かもしれませんが、ポンプ施設の管理は一括しています。
- 農業集落排水事業: 市内西板戸井地区の農業集落排水処理施設(小規模な下水処理施設)および関連する数か所のポンプ場の運転維持管理も対象です。これは農村部の集落排水を処理する施設で、2000年に供用開始され翌年度から包括委託に組み込まれていた経緯があります。今回の包括委託でも引き続き一体的に管理しています。
- コンサルタント業務: 先述の通り本PPPの特徴として計画・設計等のコンサル業務も包括契約に組み込まれている点があります。具体的には、上下水道事業の中長期計画策定支援、老朽設備の更新計画立案、修繕・改良工事の設計や施工監理、さらに補助金申請に必要な各種書類作成などが含まれます。通常、こうした業務は自治体が個別にコンサル会社へ発注するものですが、守谷市では包括委託の中で必要に応じて計画・設計を随時実施できる体制を整えました。これにより、施設の更新需要に迅速かつ計画的に対応でき、事業運営の最適化が期待されています。
- その他業務範囲: 上記に加え、日常の運転監視業務(施設の遠方監視・巡回点検)、保守管理・修繕業務(機器の定期点検・予防保全と軽微な修繕対応)、廃棄物管理(下水汚泥や処理残渣の処分管理)、そして緊急対応業務(事故や災害時の初動対応・復旧支援)まで、上下水道施設運営に関わる一連の業務を包括的に委託しています。ただし、水道料金の検針・徴収業務については別途専門業者への委託契約があり(2025年からはヴェオリア・ジェネッツ社が担当予定) (守谷市上下水道料金徴収等業務 2023/11/01-茨城県 | エヌ・サーチ)。料金収納等の顧客サービス部門は今回のウォーターPPPの範囲外です。
契約形態と体制: 本事業は共同企業体(JV)方式で実施されています。代表事業者は上下水道運営管理を専門とする株式会社ウォーターエージェンシーであり、加えて建設コンサルタントの株式会社オリエンタルコンサルタンツ(下水道分野担当)と株式会社中央設計技術研究所(上下水道全般の計画・情報システム担当)がJV構成員として参画しています。この体制により、O&M(オペレーション&メンテナンス)の実務力と、工学コンサルタントの計画立案力を組み合わせた運営が可能となっています。契約は性能発注型(アウトカム重視型)の包括委託契約で、市が求めるサービス水準や成果を示し、それを満たすようJVが具体的手法を提案・実施する仕組みです。契約期間は長期10年ですが、中間でのモニタリングやKPI評価、必要に応じた見直しの枠組みも設けられており、長期間にわたり安定したサービス提供と継続的な改善が両立するよう設計されています。
ウォーターPPPによるメリット
ウォーターPPPの導入によって、守谷市は財政面および運営面で様々なメリットを得ると期待されています。主な効果を整理すると以下のとおりです。
- 事業費の削減と効率化: 包括委託により複数業務を一括発注したことでスケールメリットが得られ、個別発注を積み重ねるよりもコスト縮減が図られています。特に上下水道・農集排水の複数事業を統合的に管理することで、人員・設備の効率的配置が可能となり、重複業務の解消や一元化による経費節減効果が見込まれます。ウォーターエージェンシー社の発表によれば、本委託では予算項目横断的な運営管理により事業費削減を実現しており、民間ノウハウの活用でトータルコストを抑制できるとされています。さらに、契約にはコスト削減分を**官民でシェアするインセンティブ制度(利益配分)**も組み込まれており、民間側も効率化努力を継続しやすい環境です ([PDF] 最近の水道行政について – 福岡地区水道企業団)。
- 財源確保と投資促進: コンサル業務を含めたことで、老朽施設の更新に必要な国庫補助金・交付金の獲得を積極的に支援できます。専門家が適切な更新計画や事業採択のための書類整備を行うことで、タイミング良く補助事業に応募でき、市としては有利な財政支援を受けやすくなります。その結果、将来の大規模改築・更新投資に必要な財源を確保しつつ、市単独負担を軽減する効果が期待されます。また長期契約により将来の費用見通しが立てやすく、財政計画上も支出の平準化・安定化が図られる利点があります。予期せぬ設備故障などに対しても民間事業者が一定のリスクヘッジ機能を果たすため、財政リスクの低減にもつながります。
- サービス品質と継続性の向上: 民間企業の持つ高度な運転管理技術や品質管理手法を導入することで、上下水道サービスの品質向上が図られます。例えば、水質管理や設備点検の専門スタッフが常駐・巡回することでトラブルの早期発見・対応が可能となり、給水停止や水質事故等のリスク低減が期待できます。また24時間体制の監視・緊急対応力が強化され、市民に安定した水供給・汚水処理を継続できる点も大きなメリットです。10年という長期委託の中で、事業者は設備の経年変化データを蓄積しながら計画保全を実施できるため、場当たり的な対応ではなく予防保全型の運営に転換できています。このように、PPP導入によって中長期的に見たサービスの信頼性向上と持続性確保が実現しています。
- DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進: 本事業では民間提案によりクラウド型の施設管理システムが導入され、上下水道施設の維持管理におけるDXが一気に進みました (『上下水道施設のクラウド型施設管理システム』の開発と運用を開始 | 株式会社ウォーターエージェンシー)。ウォーターエージェンシー社と中央設計技研による共同開発で、このシステムは設備台帳や点検・修繕履歴などのデータをクラウド上で一元管理し、効果的な設備運用やリスク評価を行えるものです 。これにより、現場の点検記録や修繕計画をリアルタイムで共有・分析でき、データに基づく意思決定の高度化が図られました。DX基盤は市職員と民間事業者、さらにコンサル会社が情報を共有するプラットフォームにもなっており、業務の効率化・省力化と課題解決の迅速化に貢献しています ()。国も上下水道DXの標準化・推進を進めている中、守谷市は民間連携によって先行してデジタル技術を活用した先進事例となりました。
- 人的負担軽減と技術力維持: 民間委託によって職員の日常業務負担が大きく軽減されました。これまで市の技術職員が担っていた細かな運転管理・検査業務を事業者に任せることで、職員は施設計画や契約管理などマネジメント業務に注力できます。またベテラン職員の退職によるノウハウ喪失リスクも、事業者側で人員計画を立て継続的に専門技術者を配置してもらうことで補完できます。JVには水道・下水道の専門会社が参画しているため、高度な技術支援を受けられるだけでなく、市職員との協働作業を通じて技術移転や人材育成の効果も期待できます)。このようにPPPは人的リソース面での安心感を生み、将来にわたり事業を継続していく上で強固な支えとなっています。
以上のようなメリットにより、守谷市は限られた経営資源の中でも質の高い上下水道サービスを維持し、将来世代にわたって持続可能なインフラ運営を実現しようとしています。全国的にも、中規模自治体が抱える課題に対しPPPで対応する好例として評価されています。
先進的な取り組みとしての特徴
守谷市のウォーターPPPは、日本の上下水道分野における官民連携の中でも特に先進的・モデル的な事例と位置付けられています。その特徴をまとめると次のとおりです。
- 国内初の「更新支援型」包括委託: 従来の上下水道包括委託は運転維持管理が中心で、計画立案や改築設計は別途発注するケースが一般的でした。それに対し守谷市は計画・設計等のコンサル業務を包含した長期包括委託を導入し、国内初の試みとなりました。国土交通省もこの手法を「管理・更新一体マネジメント方式(レベル3.5)」と分類し、コンセッション(民営化)への移行手前の高度な官民連携モデルとして紹介しています ([PDF] 下水道分野のPPP/PFI(官民連携) – 国土交通省)。つまり、運営と更新を一体的に委託することでハイブリッド型のPPPを実現しており、自治体直営とコンセッション方式の中間に位置する先進的スキームと評価されています。
- 上下水道一体運営: 水道事業と下水道事業、さらに農業集落排水まで含めて一本化した包括委託は、複数事業を横断する包括契約として珍しい事例です。他自治体では水道単体、下水道単体で包括委託する例は増えていますが、両事業を同時に委託しコンサル業務まで統合した例は限られます。守谷市は上下水道を一体経営する体制を整えていたこともあり、流域一貫の水管理という観点でも先駆的です。複数事業のシナジー効果(例えば下水処理の副産物を水道事業で活用するなど)も見込め、効率化とサービス向上を両立するモデルケースとなっています。これは国が提唱する「広域化・分野横断型ウォーターPPP」の先行事例としても位置付けられます ([PDF] 新たな水循環施策の方向性について)。
- デジタル技術活用(DX)の先駆け: 前述の通り、本事業ではクラウド型施設管理システムの導入などデジタル化への積極的な取組みが顕著です (『上下水道施設のクラウド型施設管理システム』の開発と運用を開始 | 株式会社ウォーターエージェンシー)。コンサル企業と運営会社が協働でDX基盤を構築し、現場の維持管理業務にIoTやデータ分析を取り入れています。このような官民連携によるDX推進は全国的にも先進的であり、国の上下水道DX推進計画に合致したモデルとなっています。守谷市で培われたノウハウ(運営企業とコンサルがデータを共有する仕組み等)は、他の自治体で同様のシステムを展開する際のベストプラクティスになると期待されています。
- 長期契約による安定運営とKPI管理: 10年という長期の官民契約は、上下水道分野ではまだ新しい試みです(従来は3~5年契約が一般的)。長期スパンだからこそ可能になる計画的な設備投資や人材育成があり、守谷市はそのメリットを先取りしています。また長期契約の中でKPI(重要業績評価指標)の設定や定期的なモニタリングを行い、サービス水準を維持・向上させる仕組みも導入しました。例えば、漏水率や水質基準適合率、設備稼働率、苦情対応件数などの指標を事業者と市で共有し、目標達成状況をチェックすることで透明性と説明責任を確保しています(詳細なKPIは非公開情報かもしれませんが、契約上設定されていると推測されます)。このように長期のパフォーマンス管理を行うPPPは他自治体にとってもモデルとなる運営手法です。
- 複合JVによる知見融合: 代表事業者に運営管理のプロフェッショナル企業、JVパートナーにコンサルティング専門企業を据えた体制も特徴的です。維持管理会社と計画系コンサル会社がチームを組むJVは、守谷市のケースが成功モデルとして注目されています。これにより、現場目線の運営力と計画・技術提案力が結集し、従来別々に対応していた課題にもワンストップで取り組めます。官民の壁を越えて**三位一体(市・運営企業・コンサル企業)**で事業を推進する姿勢は、まさに先進的取り組みといえます。国もこのような事業者連携の形態を支援しており、守谷市はその良い実例となりました。
以上の点から、守谷市のウォーターPPPは単なる包括委託ではなく、次世代型の官民連携モデルとして位置付けられます。全国の水道事業体からも注目され、講演会や協議会で事例発表が行われるなど(実際、2023年7月の国交省「官民連携推進協議会」でも守谷市事例が紹介されています (上下水道:「令和5年度 第1回水道分野における官民連携推進協議会」について – 国土交通省))、他自治体の参考となる先進事例となっています。
他自治体の事例と全国的動向
守谷市のウォーターPPP導入は、全国的な流れの中で位置付けることができます。他の自治体の取り組みや全体的な傾向と比較すると次のような点が挙げられます。
- 他自治体の先行事例: 日本の水道分野で包括的民間委託(ウォーターPPP)を導入した先行例として、熊本県荒尾市がよく知られています。荒尾市では2016年4月から国内で最も広範な業務を民間に任せる包括委託を水道事業に導入し、大きな注目を集めました (苦難に立ち向かう水道事業 ― 市民に安全な水を届けるための官民連携のサステナブルなあり方とは? | EY Japan )。荒尾市は隣接市との共同浄水場でDBO方式を経験した後、水道全体の運転・維持管理と一部経営支援まで含めた包括委託(人口約5万人規模)を実施しています。導入理由は守谷市と同様、職員大量退職による技術力低下への備えや経営効率化の必要性でしたが、当時は水道単独での包括委託でした。一方、守谷市は水道と下水道を統合した点で荒尾市より踏み込んだ形と言えます。また宮城県では県営上工下水一体のコンセッション方式(みやぎ型管理運営方式)を2022年より導入し、これも全国初の大規模PPP事例として話題になりました ([PDF] 下水道分野における PPP/PFI(官民連携)の推進について – 国土交通省)。こちらは民間事業者が料金収受を含む経営権まで担うPFI方式ですが、守谷市は経営権は市に残したまま運営・維持管理を包括委託する方式です。このようにPPPの形態は様々ですが、守谷市は中規模自治体による先進的包括委託というポジションです。
- 全国的な導入状況: 国の統計によれば、上下水道事業の包括委託件数は年々増加傾向にあります。令和5年時点で上下水道の包括的民間委託は全国で78件に達しており、政府はさらに今後10年間で200件規模まで拡大させる目標を掲げています ([PDF] 第35回PPP/PFI検討会・第7回民間セクター分科会 第2部「官民 …)。特に「ウォーターPPP(更新支援型やコンセッション等)」は重点分野と位置づけられ、財政支援(調査費用の補助)やガイドライン整備によって導入促進が図られています ([PDF] 新たな水循環施策の方向性について)。守谷市のように国の補助事業「官民連携基盤強化支援」を活用して事前調査を行い、本格導入に踏み切った自治体もあります。今後は、守谷市・荒尾市に続く形で中小都市でのウォーターPPP事例が各地で増えていく見通しです。例えば奈良県生駒市や福岡県遠賀町など、水道事業で包括委託やコンセッション検討に動き出した自治体も報告されています(令和5年度補正予算で17自治体がウォーターPPPの調査費を計上)。このように、全国的な潮流として官民連携による水インフラ運営改革が加速しつつあり、守谷市はその最先端の一つと言えます。
- 他自治体との比較(成果や工夫): 他の事例と比べて守谷市が際立つのは、包括委託の深化度と成果の早期発現です。荒尾市では包括委託導入後、人員配置の適正化や漏水削減などで一定の成果が報告されていますが、一方で課題もあり次のステージに向けKPIの見直しや契約更新準備が進められています (。また、市場規模が中くらいの自治体でもここまで包括的なPPPが成立した点は「自分の自治体でもできるかもしれない」という他自治体への示唆となっています。
総じて、守谷市のウォーターPPP導入は、全国的な官民連携推進の流れの中で極めて先進的かつ示唆に富む事例です。他自治体はこれを参考に、自地域の規模・課題に応じたPPP手法(包括委託、指定管理者、コンセッション等)の導入検討を進めている状況です ([PDF] 新たな水循環施策の方向性について)。守谷市のケースは「公共と民間がパートナーとなって知恵を出し合い、水サービスを持続可能な形で提供していく」ことの有効性を示しており、日本の水道事業改革における一つの成功モデルとして評価されています。
守谷市のウォーターPPPまとめ
守谷市がウォーターPPPを導入・拡張しようとしている背景には、老朽化する上下水道施設の更新需要増大と、少人数の職員で専門的業務をこなす限界という切実な課題があると読み取れます。既存の包括委託では運転維持管理は外部化していたものの、設計や積算、施工監理といった高度な技術業務は市職員が担ってきました。しかし、職員不足・技術者不足ゆえに大規模投資が必要な更新計画を実行するのが困難な状況でした。
そこで、「10年契約」+「コンサル業務を含む包括委託」へ拡張することで、民間の技術力と資金調達ノウハウを活用し、計画的かつ効率的に老朽施設を更新しようという狙いがあります。長期契約とすることで、国費補助を含む投資計画を柔軟に組み立てやすくし、ストックマネジメント手法(設備台帳・修繕履歴の共有)に基づいた持続的な上下水道事業運営が期待されています。
今後は、設計積算の透明性やモニタリング体制の整備が課題となりますが、いずれにしても守谷市はヒト・モノ・カネの不足を一括して解決し、将来にわたって安全・安定な水道サービスを提供するための手段としてウォーターPPPを選択したと考えられます。(令和4年度第1回審議会資料 報告事項)